「ドッグマン」マッテオ・ガローネ
イタリアギャング映画、歴史的傑作「ゴモラ」。
同監督の最新作が公開。
イタリアの海辺、さびれた小さな街。
犬と、離れて暮らす娘を愛しドッグサロンを営む主人公。
彼はそのお人好しな性格で街の厄介者に気に入られてしまい、気が付けば後戻りのできない犯罪世界に立たされていて…。
さすがゴモラの監督。
危ない雰囲気が終始驚くほど美しく描かれている。
生活の音、晴れない空、夜の消えかかった街頭と、夜明けの空気。
少ないシーンながらにじみ出る閉塞感。
色素の薄い画面に映し出される、主人公の感情。
彼は表に出さない。
今作にはゴモラのときのような、「カッコよさ」だとか「憧れ」は描かれない。
そこにあるのは街の人々の生活。
犯罪とドラッグ社会の現実感。
主演俳優、マーセロフォンテの演技は圧巻。
希薄な表情ながら煮えたぎる感情が素晴らしく表現されている。
さらに劇中に多く登場する犬。彼ら(?)の演技にはもう感嘆しかない。
すさんだ雰囲気が好きな人におすすめ。
バンコク
突然ですが先日、タイに行って参りました。
フィルムを現像したんですが特にアップする場所がないので、ここに全写真載せておきます。笑
「永遠に僕のもの」ルイス・オルテガ
70年代、アルゼンチン。
実在した美しき連続殺人鬼を描いた作品。
カンヌ、ある視点部門で上映後、話題沸騰の本作。公開初日に武蔵野館で鑑賞。
欲しいものはどんな手を使っても手に入れ、都合が悪ければ人を殺す。
学校で意気投合したラモン、そしてその父親と共にそれらの行為はエスカレートしていく。
実話として興味深いのは、彼が本当に欲しかったものは何だったのかということ。
愛だろうか?ラモンの気持ちだろうか?スリルか、はたまた美と財産?現実はそんな単純なものでは無かったようだ。
さすがある視点部門上映作、といった映像美。劇中を彩る鮮やかな赤と青、カメラワーク。それらはアルゼンチンという私たちには馴染みのない国を魅せてくれる。
実話でありながらどこか幻想的で美しく残酷な物語は静かすぎることもなく、激しすぎることもない。そこに描かれるのは紛れもなくカルリートスの歩いてきた道であり、彼の感性は私たちを惑わせる。
まだまだ上映中なのでぜひ。
「アンノウン・ソルジャー」アク・ロウヒミエス
北欧から最新戦争映画をご紹介。
1941年。ソ連との冬戦争で領土を奪われたフィンランド。それを取り返すべく、同国は国民400万人中50万人を徴兵し、ソ連に挑む。
フィンランドの戦争映画史上、最大予算、最大規模という本作。
戦闘シーンはおそらくかなりシビアでリアル。一つの戦闘に20分超。視点を変えながら細かく描き、視聴者に、本当にこんな感じだったんだろうな、と思わせる。
この映画、明確な主人公がいない。主人公はフィンランド兵だ。ストーリーはある陸軍を追うような形で展開される。
人と人。軍中の人間関係。友人。上司。恋人。辛うじて保たれる平常心と少しずつ狂っていく感覚。ああ、これが戦争だ。
また映像のタッチが良い。寒色、冬。晴れない空。白い肌。北欧映画、ロシア映画好きを震撼させること間違いなし。
ちなみになんだけど、ティムオブライアンの代表作、「本当の戦争の話をしよう」を読んだことある人、本作を観ておそらく、ああ、これが戦争だ、と思う観点がこの小説に近いことに気づくと思う。
最近村上春樹の新訳が出てたのでこちらもぜひ笑
「ハウス・ジャック・ビルト」ラーフフォントリアー
アメリカの実在した連続殺人鬼ジャック。
12年間で66人を殺害したサイコパスをラースフォントリアーがアーティスティックに描く。
飛び散る血、家、車。
赤を基調にした映像で語られる、美を追求するサイコパス。殺人鬼でありなが、彼の感性は私たちが驚くほどに視覚的な美を重んじていたようだ。そのためならなんでもする。
さすがラースフォントリアーといった作品。カンヌで途中退席者が続出したらしいけど、血が苦手な人には少々きついかも笑
タイトルにもなっているように「家」へのこだわりがこれまた凄い。
彼が本当のところ求めていた家は何だったのだろうか、温かい家族がいたら違ったのだろうか、、、
これほど残酷な映画でありながら後半の美しさには圧倒され画面に釘付け。
犯罪映画好きな方ぜひ。
「BULLY」ラリー・クラーク
先日「アメリカン・アニマルズ」を観たので、便乗して若者による犯罪映画を一本。
アメリカで実際に起きたティーンエイジャーによる殺人事件を映像化した作品。
サーフィン、セックス、ドラックに溺れ、自由奔放な仲間とつるむ日々。そこに彼らの、様々な感情は遊び半分から、時に実際の狂気になる。
アメリカの若者たちと街は観ていて気持ちが良いものだ。
また写真家でもあるラリー・クラーク監督の描写は最高。廃れた雰囲気が芸術的に描かれて、どこを切り取っても素晴らしい。
重いテーマでありながら、若者独特の危なかしい感情が淡々と綴られて飽きない。
さらに言うと、犯罪映画でありながら抑揚が激しすぎなくて、疲れずに観れる。
そして豪華な俳優陣。「ファニーゲームUSA」や「ラストデイズ」のマイケルピットに、「顔のない天使」、「ターミネーター3」のニックスタールなど、本作出演後、有名になる俳優が揃って出演。(みんな若い!)その演技ときたら素晴らしい。
ドラック映画、犯罪映画好きな方是非。
淡々とした雰囲気が好きな人にもオススメ。
「真珠の耳飾りの少女」ピーター・ウェーバー
その完成までを描いた作品
画家と家族、家政婦。
裕福とは言えない当時のオランダ。
画家の家で家政婦として働きはじめた美しい少女はその美貌により絵のモデルに。純粋な少女の感性と、家中に蔓延る歪んだ愛情に嫉妬。
絵の完成までが描かれる。
スカーレットヨハンソン(当時18歳)のあまりの美しさに目を疑う。真珠の耳飾りの少女本物にしか見えない。
観ていて胸が痛くなるような、人と人との感情。
それでいて素晴らしい絵がだんだん完成していくその様は、単純な美しさではないようだ。
有名な絵の背景は奥深く、汚れたものなのかもしれない。それでいて本当に美しい描写。
当時の世界観も良い。
コリンファースと、若きキリアンマーフィー(髪長い!最高!笑)の演技も見どころ。