「ブラック・ムーン」ルイ・マル
ルイ・マルの怪奇作品。
開始いきなり「本作は理屈の通じない世界での作品です」と監督本人の脚注が添えられる。
男女間での戦争が繰り広げられている世界。
主人公のリリーは敵の攻撃から車で逃げ、奇妙な場所にたどり着く。
リリーがどこから来たのか、何者なのかは語られない。
どこの国の話なのかも分からない。
確かなことは、主要言語が英語であることと、秋から冬に向かう季節であること。
ひとつひとつの出来事に、意味があるのか、ないのかの判断が難しい映画だった。
ルイ・マル版「不思議の国アリス」と評される本作だが、全くその通りである。
シュバンクマイエルほど奇抜ではないものの、意識したのでは?と思われる描写が多い。
各所で蠢く虫、泣く花、訳のわからない言葉、裸で走る、子供達。
ただ、そこには確かに、戦争の気配がある。
現実世界でも、この奇妙な空間でも、その気配は突如大きな音を立てて現れる。
個人的には、もっと派手に訳が分からないほうが見やすいかな、と思った。
シュバンクマイエルとルシールアザリロヴィックの間を行ったり来たりするような感覚。
終始どんよりとした、薄暗い空と枯れかけた木々たちは観ていて心地よかった。